合氣道真生会川崎高津道場 活動報告

2021.07.02

合気道と長柄武器

「長柄(ながえ)武器」とは、矛(ほこ)、槍(やり)、薙刀(なぎなた)、棒など、主に両手で用いる長い柄のある武器です。長さに規定はありません。

〈 薙刀体験中 : 中央が吉見 〉

長柄武器に属するものとして、現在、多くの会派の合氣道では杖(じょう)を稽古に使用します。合氣道真生会では、杖の形、杖対剣または杖、徒手対杖技などを稽古します。

〈 上の三本が杖です : 長さ約1.3m 〉


合氣道で杖を用いるようになったのはおそらく昭和初期のことで、昭和6年とされる道場の写真には何本もの杖が見られます。

戦前の合氣道では槍(やり)も使っていたようです。開祖は槍術(そうじゅつ)を得意としたといわれており、大正14年、武道家となって初めて上京し、賓客を招いて竹下勇(海軍大将)邸で披露された演武は体術でも剣術でもなく槍術でした。その場にいた海軍出身で元総理大臣の山本権兵衛卿は大変な感銘を受けたと伝えられています。

また写真や動画を見ると木銃(もくじゅう)をよく使っており、現在は杖で稽古する技の多くを木銃で稽古していたようです。



木銃は銃剣(じゅうけん)術の稽古で使用する小銃(ライフル銃)を模した武道具で、現代の銃剣道では長さ166cmのものを使います。これは三八式歩兵銃に着剣した長さだそうです。後方の銃床は攻撃に用いないので実際に使用する部分は140cmほどです。そのうち約100cmがグリップから銃口で、先の40cmほどが刃部の想定です。

〈 銃剣は小銃の先に短刀を装着した兵器です 〉


〈 小銃に装着する短刀 (太平洋戦争時のもの) 

日本の銃剣術は、明治時代にフランス式銃剣術に宝蔵院流槍術、佐分利(さぶり)流槍術などを合わせて編み直されたものです。技法の中心は左手足を前にした構えからの首または胴への突きとその防御のようです。一般の現代人には銃剣術はなじみが薄いですが、戦前は兵役制度があり、陸軍の訓練ではほぼ必ず行われていたと思われるので男子国民の多くが経験する極めて一般的な武術でした。将校を除く一般大多数の兵士は軍刀など携帯していませんでしたので、日清戦争(1894-)~太平洋戦争(-1945)における白兵戦での主力兵器は銃剣でした。これは他国でも同じことで、銃剣術及び対銃剣術は、最も実戦に必要な戦闘術でした。戦国時代における槍に相当する存在です。泰平の江戸時代に入り、剣槍の時代が長く続いた日本より早く歩兵の主力兵器が小銃となった欧米では、1700年代後半には既に銃剣が白兵戦の主力になっていたようです。アメリカ独立戦争(1776)やフランス革命(1789)に関する絵画では多くの兵士が銃剣を手にしています。現代の戦争ではそもそも白兵戦のなることが少ないでしょうが、もしそうなった時はやはり銃剣が主力兵器になるでしょう。現代の自動小銃も短剣が装着できる構造になっています。

〈 英国王宮衛兵 1998年 〉

合氣道開祖・植芝盛平翁先生も20~23歳(明治36~39年)の兵役期間中に訓練で銃剣術を体得し、教官の代わりに指導するまでに達していたと伝えられています。時は正に日露戦争が行われた時期ですから、相当に厳しい訓練が行われたはずです。後に開祖が槍術を得意とされた下地には、この銃剣術があったのでしょう。現代の合氣道の杖の操法にも少しはその影響が残っているかもしれません。我々の先師も戦時中の昭和18年末から終戦まで陸軍で兵役についているので、銃剣の訓練はだいぶやらされたかと思います。そういえば、一度だけ道場にあった木銃(上の写真のもの)についてどういったものかお聞きしてみようと思ったことがあったのですが、その時はただ「そこに置いておいてください」と言われただけでした。今考えると、勝手に触って怒られなくてよかったー・・・と思います。先師のお優しさに感謝です。。

近代の戦争で実際に使われた経緯もあり、銃剣道は軍国主義時代の負の遺産のように思われている傾向もあります。現在銃剣道を稽古しているのはほとんど自衛隊の関係者ではないかと思います。もし、軍国主義の影を払拭して一般に広めたいと考えるなら、例えば木銃ではなく特注、または近い長さの棒(五尺棒や六尺棒)を使用して「短槍道」とか「新槍道」とかに改名したらどうかと思います。「柔剣道(柔道と剣道)」と勘違いされることも防げますし。あくまで素人意見なので、「バットでテニスをしろ」と言っているようなものだったら申し訳ありません。

一方で杖(じょう)は現在の合氣道の稽古で広く使われているものの、開祖が杖道やどこかの流派の杖術を修業した記録はありませんし、技法にもだいぶ違いを感じます。おそらく、合氣道の杖の技は、槍術や銃剣術、剣術などを元に開祖が独創されたものだと考えられます。

関連ブログ「杖(つえ)と杖(じょう) 」 →https://aikidoshinseikai-kawasakitakatu.cloud-line.com/blog/2021/04/101729/#more

例えば真生会の杖の形では右手で杖の中程を持って左右に大きく回転させる技法があり、開祖の映像の中でもしばしばこれが見られます。これは他の日本武術ではほとんど見られない技法です。数少ない類例としては、楊心流薙刀が両手で薙刀を回す形があり、また鎖鎌術では鎖分銅を回転させる技法があります。これらの技法には、相手を容易に近づけさせないと同時に、攻防の手を読ませないかく乱の効果があると思われます。なお杖でのこの技法は他派の合氣道ではあまり稽古されていないようで、例えば合気会の一部で稽古されている「三十一の杖の形」にもありません。真生会の杖の操法は、先師が開祖と二人きりのときに教授されたものがベースとなっているそうなので、あるいは他の門人にはあまり伝えられなかったのかもしれません。

現代では合氣道は徒手武道だと思われていることも多く、実際武器技をほとんど稽古していない道場は少なくないと思います。特に杖は操法が多様で難しいところもあることから、剣以上に避けられがちかもしれません。しかし、杖の技もまた開祖が大切に育んだ技法であり、合氣道の重要な要素です。武器術の理解がなければ合氣道の本来の在り方を考えることはできないでしょう。杖は槍、薙刀、棒、銃剣など様々な長柄武器の操法、対処法を修練・研究できる実に優れた武道具です。また護身術の観点から見ても、杖の操法は傘や箒(ほうき)など、ある程度長さのあるものにすぐに応用することができて便利です。川崎高津道場でもいつも稽古できているわけではありませんが、できるだけ修練を欠かさず、大切にその技を継承していきたいと思います。

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~ おまけ ~

道場に小虫がよく侵入して来るので、蚊取り線香を設置してみました。なかなかの効果です。。前は部屋用虫避けスプレーを使っていたのですが、あれ虫が弱っちゃうんですよね・・・。別に虫を痛めつけたいわけではないので、「蚊取り」といいつつ実際は「蚊よけ」の線香がよいです。あと、個人的にお線香の香り大好きなんですよねー。自分は本当に生きているのでしょうか・・・(-∀-)

最近の稽古風景。。

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合氣道真生会川崎高津道場 吉見新

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