合氣道真生会川崎高津道場 活動報告

2022.08.22

戦争と合氣道の心

毎年そうですが、日本の8月は関連するテレビ番組や行事なども多く、戦争に関していろいろ考えることの多い時期です。

合氣道は歴史的に戦争と深い関わりがありました。開祖・植芝盛平翁先生が拠点を東京に移して本格的に武道家として活躍し始めた昭和初期(1926-)は日本が戦争へと突き進んで行った時期でした。門下には海軍・陸軍の将兵も多く、求められて海軍大学校、陸軍戸山学校、陸軍憲兵学校などの軍関係機関にも頻繁に指導に赴いていました。そもそも大正期にはまだ京都郊外で限定的な活動しかしていなかった開祖を東京に招き、広く社会に押し出したのは舞鶴(京都)に海軍港があったことから縁のできた竹下勇氏などの海軍高官たちでした。

海軍と開祖(昭和初期)


日中戦争からアジア太平洋戦争(1937-45)の時期には若い門人たちの多くが軍に召集されて道場を離れて行きました。濱田師範長や自分たちの教わった先師も昭和17年(1942)に入門した頃には開祖の陸軍憲兵学校(東京中野)への出張指導にしばしば随行し、翌年にはご自身も軍の召集を受けて鹿児島の基地へ配属されたそうです。

第一次世界大戦(1914-1918)を経た昭和初期の時代、世界の軍隊では既に機関銃、戦車、戦艦、戦闘機、航空母艦といった近代兵器が急速な進歩を遂げていました。日本軍も兵器の改良・開発に力を入れていましたが、まだ剣槍(銃剣)で戦いの勝敗を決し得るという、「白兵戦至上主義」的な思考も根強かったようです。柔道や剣道をはじめとする様々な武道、伝統武術、そして合氣道にもそうした「軍国主義」への貢献が求められていたのです。

日本陸軍の兵士(東南アジア)

開祖は決して合氣道を軍事のための戦闘術とは考えていませんでした。開祖は大正10~14年(1921-25:開祖40歳前後)の頃に「武の根源は万有愛護の精神である」という悟りを得たとされています。アジア太平洋戦争が開戦する20年ほど前のことです。それ以来、開祖は和合の心、自然の理にかなうよう、自らの武道を発展させ続け、門人たちを指導し続けていたのです。

しかし、日本はそれとは全く逆の戦争の道へ突き進んで行きました。当時の政治家、軍司令部は言葉を飾って正当性を叫び、大多数の日本人もそれを信じていたようですが、残念ながらあの戦争は領土と資源を求めた日本の武力侵略が招き寄せた惨劇でした。結局、日本が平和の大切さを知り、それを声高に訴えるようになるのはボロボロの敗戦の後のことです。その間に日本ではおよそ230万人の兵士(大半は民間からの召集)と80万人の民間人が亡くなり、戦場となったアジア諸国、南洋・太平洋上の島々、アメリカ、イギリス連邦(現在のインド、オーストラリア、カナダなどを含む)など交戦国の人々なども膨大な被害を受けました。

空襲直後の横浜市内

英連邦戦死者墓地(横浜市)

戦争の惨禍を考えるほどに、改めて合氣道の精神の大切さを思います。合氣道の本来の目標は、ケンカに強くなることでも、技を誇示することでもなく、「世界の人々と手を取り合い、自然に調和して平和で豊かな世界を作り、守っていくこと」です。「合氣とは愛なり」という根本理念を見失ってしまえば、それはもう合氣道ではありません。

「 合氣にて、よろづ力を働かし、美しき世と、安く和すべし 」

度重なる戦争の時代を生きた開祖が心の底から願った「合氣道」の真の在り方、この道歌に強く表されているように感じます。

戦争で亡くなった方々がせめて安らかに眠っておられることと、今なお各地で続く戦火が早く収まることを心からお祈り致します。

合氣道真生会川崎高津道場 吉見新

~ 追記 ~


沖縄戦(1945)の映像の中で、印象深いシーンがありました。女性が隠れていたガマ(洞窟)から米軍に導き出される際に、スッとおじぎをしたのですが、米兵もそれにつられてサッと頭を下げたように見えたのです。この時、互いにどのような気持ちだったのでしょう。人は礼には礼を、無礼には無礼をもって応ずることが多いと思います。武道で大切とされている「礼」の意味について色々考えさせられるシーンでした。

1945年8月6日、広島の原爆で亡くなった当時12歳の少年が遺したお弁当箱があります。アルミ製と思われるつぶれたお弁当箱の中にはその日に食べらなかったごはんが今でも炭化して残っています。おかずに卵焼きとホウレンソウの和え物も添えていたそうです。食糧事情の厳しい時期のこと、きっとお母さんが苦労して食材を集め、愛情を込めて作ったお弁当だったと思います。

「生きる」とは何か、「死ぬ」とは何か、「人間」とは何か、戦争からは様々なことを考えさせられます。

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※関連ブログ

「戦争と武道 ~ 終戦の日に」(2021年8月)https://aikidoshinseikai-kawasakitakatu.cloud-line.com/blog/2021/08/102036/

「平和な時代に合氣道ができること ~ 合氣道の真の目標」(2022年1月)https://aikidoshinseikai-kawasakitakatu.cloud-line.com/blog/2022/01/105055/#more

 


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